日本文化満載のジブリ映画とその魅力。外国人視点で捉えると?

日本人のソウルフード 国内外での生活
日本人のソウルフード

ジブリ映画を鑑賞する時、どのようなことを思いますか。

今や世界中から大人気のジブリ映画ですが、恐らく視聴者全体の半数以上は外国人が占めるかも?!つまり、過半数が日本語で観ていない可能性が高いわけです。

制作当初は海外の視聴者層を想定していなかったかもしれませんが、ジブリの映画は実に日本文化に根差した情景、言い回し、人間模様が多く展開されています。

英語という言語に限定されますが、英語の字幕や音声吹き替えで観ると、日本語で視聴していた時と大きな隔たりがあります。日本人ならば当たり前に理解できている映画の一コマでも、外国人にとってはまるで理解ができない。

思い当たる特定の映画や場面、ありますか?

異文化を持つ人にとって理解しづらい可能性のある日本的場面。その可能性を探りつつ、ジブリ映画のディープな日本文化に触れて魅力を再発見しませんか?

「日本人」の定義

初めにお断りさせていただきますが、このページ内で示す「日本人」とは、日本語を不自由なく使い、日本文化に深い馴染みのある人、と定義させて頂きます。DNAや両親の出身、主要言語といったことは一切無関係です。

「となりのトトロ」

となりのトトロでは、絵に描いたような日本の田舎の牧歌的な風景が随所に登場します。

  • バス停の雰囲気
  • 森の中にある神社
  • 古民家の雰囲気
  • 農作業する人たち
  • 助け合い精神で成り立つ村社会の様子

これらのことを日本文化を知らない人が見ると、1つ1つの場面を観ただけで、自分の記憶や経験と紐づけすることは難しいお話ではないでしょうか。

そうだとすると、登場人物たちの取る行動やセリフの意味など、些細なことであっても、その関係性がところどころで理解できないということが起こります。

猫バスの行き先表示にまつわる2つのこと

猫の額の位置に「七國山病院」と言った、行先表示のスペースがあります。日本で電車・バス文化に馴染みのある人ならばわかりますよね。

さつきが、猫バスに行き先の変更を依頼する場面では、その表示がクルっと変わるこのカラクリも、日本人だからこそ状況を理解できます。

海外では、バスなどの行先表示が数字だけであったり(一切ないことも!)、また電車やバスを交通手段として使う文化がない地域もありますよね。

日本ならではの文化に基づいて描かれているもう一つのものが漢字。

外国人にとって理解が難しいと思われる場面です。でも、シーンの理解に漢字が大きな役割を果たしていたりするんです。

バス表示の行き先に「七国山病院」とあって、ユーモアを込めて「国」の漢字が上下逆さまに表示されています。日本人ならば、「あ、逆!!(笑)」と特有のユーモアに気づき、笑みがこぼれます。

一方で異なる文化圏の方々からみると、上述したような場面などを例に、細かい描写をスルーしたまま話が展開していく、ということになるのでしょう。

もちろん本筋の理解に大きな影響を与えないとはいえ、これらのことを些細なことと捉えるか、ここにジブリ映画の醍醐味があると捉えるかはその人次第です。

そして、一つ一つの細かい動作やさりげない会話が日本文化とつながっていて、解説なしに日本人は瞬時に理解できているのです。

これらは一体外国人の目にはどのように映っているのでしょうか??

「千と千尋の神隠し」

トトロで漢字のお話が出ましたが、漢字と言えば、千と千尋の神隠しこそ漢字ネタ満載です。

さらに、銭湯や薬湯という日本独特の文化が背景にあることも見逃してはなりません。

漢字その1:タイトルからして既に難解

千尋の「千」の音読み「せん」、訓読み「ち」。

この理解を前提にタイトルがつけられているわけです。日本人であっても、ある程度の日本語学習者でなければ理解できません。例えば、日本の学校に通う小学生であっても低学年であれば理解していない可能性がある、ということです。

タイトルからして日本の漢字文化をもとに考え抜かれたものだと、改めて実感できます。

ところで、英語のタイトルは “Spirited Away”

spirit (名詞)魂、霊 (動詞)誘拐する 

ここでは動詞の過去分詞 spirited +away 「誘拐される、神隠しに遭わされる」と訳されています。

千も千尋も、主人公の名前は一文字も使われていません。千と千尋の漢字概念を英語表現するのに翻訳の限界があることの裏返しでしょう。

漢字その2:双子の名前のからくり

湯屋の女主「婆婆」
双子の姉が「婆」

二人の名前の最初の一文字を合わせると「銭湯」。みなさんはこれを外国人にどのように説明されますか。

私ならば、英語を使って、it という単語を例に出し、”IT”と表記されていれば「アイ・ティ」と読み、文中で使われて”It”や”it”と表記されていたら「イット」と読む、このイメージに近いよと説明します。

この説明はちゃうやろう?!と思われる方もいらっしゃるでしょう。単に、同じ文字でも組み合わせ方、使われ方によって音読方法に違いがあることを伝えるには、私にはこれで納得してもらえればいいかな?と考えています。

もしより良い説明の方法があるよ!という方、是非教えてください。ご意見お待ちしております😊

季節感を植物が表現

この劇中は花が咲き乱れるような場面、その他花の描写が多いことにお気づきでしたか。

つばき、つつじ、あじさい、梅…千尋がお別れの際に友達からもらったスウィートピーなどなど。
ところが、これらの花が同時期には咲かないことで、千尋が迷い込んでしまった世界観の不思議さを表現しているんです!

この世界観を理解することは、日本各地の気候に地域差はあれども、多くの日本人には難しくないことではないでしょうか。

一方で、これらの植物が一切ない国の方々から見ると、この背景は華やかな彩を与えている単なる背景にしかすぎない、とも捉えらえるわけです。

「えんがちょ」って何?

ハクが銭婆のハンコを盗んだために呪いをかけられます。
その呪いの元凶である小さな虫がハクから吐き出されたあと、千尋が踏みつぶします。

踏んだ後、カマ爺がすかさず言うセリフ:「せん(千尋のこと)、エンガチョじゃ!」。

フランス人の友達に、この場面の動作とその意味について尋ねられました。

こどもの遊びの話から始め、えんがちょというセリフについて、延々と説明をした覚えがあります。

そしてこの説明が長ければ長いほど、相手も自分も興ざめ感を覚えたことを否定できませんでした。

ソウルフードも登場

「千尋がハクからおにぎりをもらって泣くシーン」、ご記憶ありますか。

ひょんなことから不思議な世界に入り込んでしまい、両親は豚に変えられ、不安で眠れないまま朝を迎えた千尋。そんな千尋に、ハクが親に会えるように計らってくれます。

その場面で、元気をなくしている千尋にハクが差し出したものが「おにぎり」。おにぎりは日本を代表するソウルフード。

(注:ここでいうソウルフードとは、ある程度以上の歴史を持ち、好意的な思い入れをもたれている、その地域特有の食べ物のことを指しています。)

おにぎりは手で握るのでコロナ禍においては特に不衛生!と外国人からは捉えられても仕方ありません。でも、日本人にとっては手で握ることに意味があり、元気の源になるものなんです。

このおにぎりあってこそ、千尋がこの後遭遇する数々の困難に立ち向かい、乗り越えられたのです。むしろこの一場面は腹ごしらえを必要とするところだったのか~と日本人は振り返って理解することできます。

おにぎりが色々な意味で象徴的な役割を担っていることがわかるのです。

個人的には同じ腹ごしらえする食べ物であっても、サンドイッチ、肉まん、ハンバーガー、ホットドッグなどではしっくりきません。

おにぎりを見たことも外国人には、ハクが千尋に渡した白い食べ物はどのように映り、それを食べて泣いてしまった千尋を見てどのような印象を持ったのか、想像もつきません。

生のままで味わえる贅沢

創り手が日本語を母国語とする人たちで、日本ならではの文化に根差した表現やメッセージを多分に含んでいるジブリ映画。

それを何の味付け(翻訳や吹き替え)もせず、生のまままるごと味わえること。このような至福の贅沢って他にあるのでしょうか。

気になる英訳…

さて、英語字幕・音声吹き替えから気づいた違いもいくつか紹介させていただきます。

一番驚いたのは、「魔女の宅急便」の音声吹き替え。

キキが実家を旅立った後、拠点を置こうと海の見える街に降り立ちますが、住人達からあまり好遇を受けません。その中で唯一パン屋のおかみのオソノさんはキキを家に温かく招き入れてくれます。

英訳に違和感を覚えたのはその時の場面。

日本語ではキキに「コーヒー」を勧めたオソノさんでしたが、音声吹き替えのセリフでは“Hot chocolate” (ホットチョコレート)に変わっていました。

あえて理由を挙げるとすると、①ホットチョコレートがこどもの飲み物の代名詞としてわかりやすいから? ②カフェインの含まれている飲み物をこどもにすすめていることが不自然だから?

でも結局のところわかりません。

次は、先に紹介させていただいた「千と千尋」のカマ爺のセリフ、”えんがちょ”の訳の2種類も紹介します。

“Purge the spell.” (呪いを清めるのだ ⇒ ちひろ、えんがちょじゃ!)
”Begone!” (立ち去れ!⇒ えんがちょ!)

言わんとすることは、「呪いを清めること」でも「立ち去れ!」ということでもあるんですが、やっぱり「えんがちょ」なんですよね。

このようにジブリ映画のセリフは日本人の文化に基づいたピッタリな言葉が上手に使われていることに気づかされます。それこそがジブリ映画の魅力を深めているんでしょうね!

最後に

以上、日本人が意外と気づいていないジブリ映画の魅力、しかも独特の日本文化が描写されている場面を切り取り、外国人の捉え方を想像しながら紹介させていただきました。

  • 外国人と日本人とではジブリ映画の見方が異なること
    ジブリ映画は日本独特の文化が随所に散りばめられていて、外国人は日本人と同じ感覚では理解していない場合がある
  • 翻訳による文化の違い
    言語文化に合わせた翻訳の仕方があり、それがオリジナルである日本語の表現とは乖離している
  • ジブリ映画を直で観られる醍醐味と魅力
    上述の2点を考えた時、第3者(翻訳や解説本など)を通さずにジブリ映画を味わえることは大きな魅力だと捉える

外国でも好評を博しているのを見聞きするたび、日本人として誇りに思う気持ちが湧きます。

そしてこれを機に外国人たちには、日本語や日本文化の魅力を映画と共に知って味わってもらいたいと切に思わずにはいられません。

日本の悪いところに何かと目が行きがちなこのご時世ですが、日本の魅力に感謝と誇りをもってもらえる機会になれれば何よりです!

最後になりますが、ジブリ映画の成功に必須要素は、久石譲の音楽。

音楽は文化・言語を越えた普遍的ですばらしい芸術作品で、ジブリ音楽はジブリを世界に名をとろどかせるのに非常に大きな役割を果たしていることは間違いありません!

次はどのジブリ映画を観ましょうか?

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