- 「英語教室に長年通っているけれど、こどもの英語が伸びない」
- 「英検の次の級への合格が難しい」
これを理由に英語教室をやめたり、変えたりする。ところが、お教室を離れてもまた同じような状況に陥り、教室ジプシーをすることになるケースも「あるある」。残念なことですが、その原因の多くは、英語の「積み上げ不足」、積み上げができていないことにあります。
英語の土台となる基礎的な部分が出来上がっていないために、その上に知識が「積み上がって」いかない状態です。ところがこの「積み上げ」の本質を理解されないことが多いため、時間をかけても英語力が向上しないことが起きるのです。
誤解しないでいただきたいのは、この本質理解ができないことに対し「誰が(何が)悪い」という犯人探しをしてほしいわけではないということ。誰が悪いわけではなく、非生産的な犯人探しより「英語力向上の方法探し」をしていただきたいのです。
そういうわけで、英語の「積み上げ」とは何か?「どこに、何を積み上げるの?」「取り組む方法は?」「積み上がらないと何が問題?」「積み上がっていないことになぜ気づけない?」といった疑問にお答えし、「積み上げ」に必要な習慣や取り組み方法についてお話ししていきます。
お読みいただき、是非英語力向上につなげていってください!
※ここでいう「英語力の向上」「英語力の定着」とは…日々の積み上げの結果「読む」「書く」「聴く」「話す」4技能がバランスよく身につき、検定試験で言えば9割以上の正答率があること、同時に意識の中では英語への抵抗がより小さくなっていくこと。
積み上げとは
英語は「積み上げ」の教科と言われていますが、英語学習における「積み上げ」の本質理解がされないことが意外と多いのです。
そもそも「積み上げ」とは、英語の基礎となる土台をしっかりと築き、その上により高度な文法、単語、英語表現を少しずつ着実に積み重ねていく作業のことです。英語の基礎となる土台には、※フォニックス、基礎単語の定着、基礎文法の徹底理解、があります。これらは英語の「積み上げ」にはとても大事なのですが、どういうわけか案外軽視されがちです。
※フォニックス:音とつづりの法則性を理解することにより、①初めて見た単語の発音ができる ②耳で聞いた単語をつづれる の2点を目的とした音声学習体系。
この積み上げには日々のコツコツとした取り組みが欠かせず、「習慣化」させる必要があるんです。
学習姿勢としては、受け身であったり、指示待ち状態のお子さんも積み上がりにくい傾向があります。貪欲でものすごい積極性とまではいわなくても、少なくとも日々の取り組みが必要なのだという意識がないとかなり難しいケースが多いです。
積み上げができていないと、応用力も利かなくなります。数学で例えると、かけ算の九九、という土台があるからこそ割り算もできるし、分数計算も応用できるようなもの。数学の土台無しに分数のかけ算、割り算の問題を解くことは無理がありますよね。
問題なのは数学と違って、英語は積み上げ不足が把握されにくいことです。このお話はのちほど詳しくさせてもらいますが、把握されにくいからこそ、こどもの英語力が伸びない大きな原因ともなるわけです。
英語学習は土台作りとその上のコツコツとした積み上げ作業が求められます。コツコツというのは、長時間机の前に座っていることではありません。頻度を上げる=繰り返す回数を増やす、ということです。忘れて、憶えて、また忘れて、憶え直して….という作業の繰り返し。習慣化することで、負担が減ることがお分かりいただけるかもしれません。
同じことを繰り返すうちに自分の苦手分野が明確に意識できるようになります。そうなるとさらに積み上げ作業に取り組むモチベーションにもつながり、好循環が生まれます。積み上がった先に見える景色や達成感この作業に取り組んだ人にしかわからないものです。
英検1級に合格しても毎回受験し続ける人は、この好循環が整い、積み上げ作業が習慣化されているからかもしれません。
他教科や習い事と一緒にするとキケン?!
他教科と英語を同じように扱うことも「あるある」です。
例えば地理の場合、日本地理ができなくてもアメリカ地理を理解することはできます。地図記号も国によって異なりますしね。生物についても、人体の知識がなくても植物のことは学べます。ここでは他の教科がそれぞれの分野が無関係で積み上げ不要といっているのではありません。「積み上げ」の必要性が英語と比べて低いということです。
一方英語は、中1の1・2学期の文法内容を「理解」できなかったり、一時的に「記憶」しただけで忘れてしまった場合、その後の文法事項は本質的には「全く理解」できない構造となっています。でも、そのことを自覚せず、「理解」ではなく「暗記」(しかも一夜漬け!)でテストを何とか乗り越えられたりするので、暗記教科と同じように捉えてしまうのです。
習い事で言えば、「子どもの習い事ランキング」1位はスイミングなのですが、スイミングと英語の両方を習っているお子さんは少なくありません。英語のレッスンの後、スイミングに行く、というお子さんも担当したことがあります。スイミングも積み上げをさほど必要とされません。ここでいうスイミングとは、とりあえず泳げるようになればOK、ストレス解消、体力づくり、などを目的とした場合です。
ジュニアオリンピックを目指しているならば話は別ですが、週に1回プールのお教室に通うだけであとの6日間は全く何もしないのが多くのケースでしょう。バタフライができなくても、クロールや平泳ぎができるればOKかもしれないし、タイムが遅くても何らかの泳法で25m泳げたら「泳げます!」と言えたりしますよね。私がまさにそれでした(笑)。
でも、英語は文章が話せず単語だけ言えたり、質問に答えるのに時間がかかる場合「英語できます!」とはあまり言えないんですよね….。「言っても全然OKやで~!」とは思いますが。
誰も悪くないよ、「習慣」の問題!
英語上達は体力づくりのスイミングと切り分けて考える必要がありますが、これらを理解できずに問題が起きるわけです。
中学生ならば定期試験前に地理も英語も等しく「一夜漬け(勉強)」ということも「あるある」だし、スイミングが週1回だから英語も週1回教室に行けば何とかなると思い込むことも「あるある」。
親が忙し過ぎて毎日英語につき合ってあげられず、だからこそ英語教室に通わせているんです!というケースも少なくないんです。そういう場合、英語力向上を望むことに無理が出てくるのです。
でもここで英語力が伸びないのは、誰のせいでもありません。習慣がないからであって、誰も悪くないのです!!
こういうわけで、英語は「積み上げ」が必要と感じにくくなるのです。英語上達は「日々の取り組み」が重要なのですが、それを感じにくさせるもう一つ理由があります。
積み上げの必要性を感じない?!
英語力向上にコツコツとした「取り組み」の重要性が認識されにくいとても大きな理由、それは検定試験の存在。
「積み上がった高い英語力」≠「検定試験の結果」だからです。つまり、相応の英語力がなくても検定試験に合格することができる場合があるのですが、合格という事実を実力があると勘違いするケースが後を絶たないんです。
高校受験、大学受験では英語の実力を検定試験で図る傾向が強くなってきて、受験生からしたら「検定試験の結果」を最優先し、積み上がっていることの確認を軽視してしまうのも無理もありません。「○歳で英検△級合格!」という言葉も人を魅きつけるし、合格年齢にこだわる人も増加傾向のように感じています。でも、そのことに気をとられて焦るとキケンなのです!
検定試験の点数化を優先し、早く効率的に合格したい、という気持ちが短期集中的に取り組むことにもなります。「合格証書」など手に取ったら達成感や喜びもひとしお!一方の英語のコツコツと取り組んで英語力が「積み上がって」も、表彰状などはもらえません。
「点数化されること」や「合否」はわかりやすいのに対し、英語力が積み上がっているかの確認は本人では把握しづらいし、作業量も多く、時間もかかる。「積み上げていく作業」はモチベーション維持も大変です。
検定試験の合格に必ずしも積み上げ作業が求められません。数学で言えば九九に当たるような基礎的なことができなくても、時には合格します。時間的に積み上げを待つ余裕がない受験生もいます。ところがこの「積み上げ作業」を軽視して検定試験合格が達成されてしまうと大きな問題が生じるんです。
積み上げがないまま試験に合格すると…
英語力が英語関連の試験同等の力が「積み上がって」いない状態で合格してしまった場合、起きている問題を2つ挙げます。
- 「合格=相応レベルの英語力が定着」という勘違い
- 燃え尽きて努力をやめてしまう
合格=自分って英語できる!の勘違い
「合格=英語力が定着しているという勘違い」とは、合格ラインギリギリ、あるいは運よく通っただけなのに、英語力が定着していると勘違いする場合です。合格内容の把握ができてないか、結果分析を怠るケースもあります。
実際には合格レベルに達していないのに、そのレベルの英語内容は網羅できていると捉え、不完全な部分を放置してさらに難解な英語学習を続けたら….英語力を伸ばすことは難しい!実際に、半年後に検定試験のより上級を受験しても受からないケースもあります。同じ級を受けても受からないこともあります。
ここで合格レベルに達していない、つまり「積み上げができていない」とはどういう状況のことを言うのか、少し詳しくお話していきます。
- 「耳にしたことのある」単語量や表現は多いために、文法力が問われない
- 英語力ではなく、解法力が身につく
- 受け身の姿勢がつき、習慣化した取り組みができない
- 応用力が利かない=英語力の向上が難しい
1.文法力がなくても正解できちゃう?!
1. 耳にしたことのある単語が多いので、文法力を使わずに試験に出題された単語から選択肢を選ぶ類推が働きやすいケースです。理解しているのは”何となく”の単語レベルなので、文の意味を問うと文法的に誤って捉えていることが非常に多いです。検定試験は選択問題が多く、知識が曖昧なままでも正解できる傾向があります。
過去問を例に説明しますね
- 英検4級の最後の長文問題
- 内容:来日した留学生が京都に行った時の話。使ったお金は絵葉書(post card)250円、拝観料500円。
- 質問:絵葉書(post card)はいくらだったか?
- 選択肢:①250円 ②500円 ③750円 ④450円
長文の内容がわからなくても、post card という単語とその隣に書いてある金額を探すことができれば、選択肢から選ぶことができますよね?これは長文問題の中の最後の問いなので、正解すると高得点につながります。当然合格にもつながりやすくなります。
問題は「この問いに正解できても英語力が定着している」と必ずしも言えないこと。というのも、正解するために必要な単語自体は難しくないものの、長文には中学2年生までに学習する文法が文全体に散りばめられているからです。問題を解けただけでは、単語を拾い読みして正解できたのか、文法力が定着して文全体を把握できた上で正解できたのかを見分けることはできません。
比較的下位級が幼少期でも合格しやすいカラクリはここら辺にあります。合格だけに着目すると「合格=英語力が定着している」という勘違いが起きやすくなります。だからこそ、「△歳で合格!」に魅かれるのです。
英検の場合は合格でもどのレベルで合格したか、読む、書く、聴く、の理解度の内容説明まで出してくれるので、そちらの方に着目すべきなのです。英語力の伸びはそれでも把握できます。「△歳で○級合格」ではなく「△歳で○級ハイレベル合格」することに意味があるわけです。
合格した時こそ合格内容の把握をすること、結果分析して積み上がっていないところの確認をすることを意識してみましょう。
2.身につくのは英語力ではなく、○○力?!
英語の勉強=検定試験対策と捉え、対策専門の教室に通い、その時だけ勉強した気になるケースです。
検定試験対策に専念するということは、試験問題に答えることに焦点が当たります。答えを導くテクニック習得の力の方が英語力を定着より優先されることもあり、「その解法力をつけること」を勉強と捉えてしまうケースも多いのです。実は、こちらの方が学習者負担が低いこともあります。
先ほど例示した絵葉書を問う過去問題のように、単語をキーワードにして答えを導く練習を繰り返すことで「試験慣れ」「解法習得」していく方法もあるのです。英語力が伸びるとは一概に言えません。
この長文に網羅されている文法知識は中学2年生までのもの。この文法知識を一つ一つ理解し、定着させた上で解法にたどり着くのとでは、同じ結果でもその後の英語力向上に差が出来てしまうのは当然です。
3.受け身の姿勢では厳しい
この検定試験対策のお教室に通われる際の問題の一つは、試験受検までに「言われたことを言われた通りにこなす」ことで「合格」という目標を達成できてしまうことがあります。言われた通りにすれば、目標が達成できる姿勢が身につくと、英語力は「自ら取り組んで勝ち取るモノ」という意識は尽きません。
「教室にいる時=英語学習の時」という意識でいる場合、「教室に行かない限り、あるいは先生が求めない限り英語を学習する必要はない」ことが習慣化されてしまうことが少なくありません。この状況で問題なのは、自分の出来ない問題を自分で把握し、克服することを求められた時、拒否反応を起こしたり場合によっては英語嫌いになることすらあることです。
こどもの精神年齢や性格にもよりますが、小さい子であるほどこの傾向は強くなります。
英語の積み上げは、本人が「やるぞ!」と自覚することでより効果が出るので、「待ち」の姿勢では積極的な積み上げにはつながりづらいのです。習慣化できるまでは「言われた通りのこと」に取り組むのは問題ありませんが、習慣化できたり、その方法がわかってきたら自分で取り組むことが望ましいです。
考えてみればこれって英語に限った話ではなく「全ての学びに共通する」と思いませんか?
4. 応用力はやはり○○が必須
上記の1.「耳にしたことのある」単語量や表現は多いために、文法力が問われない 2.英語力ではなく、解法力が身につく 二つの場合、基礎的な知識や学習してきた内容が定着しないうちに、新しい知識や情報が次々と入ってくる状況になります。
それぞれの知識の関連付けができないので、時間をかける割には理解が出来なかい、記憶も定着しづらい、と非効率で負担の大きい学習を続けることになります。
例えば英検対策のお教室に期間限定で通って合格はした。その後、異なる検定試験や大学志望校の過去問に取り組んだら、全く歯が立たない。その後時間をかけているが英語力が向上しているようには思えない、というケースです。
英検合格が必ずしも受検級のレベルの英語力定着とは限らない。このことを理解しないまま大学受験レベルの問題に取り組むと、その問題を解くために、新しい教材を買い足す、さらなる英語教室に通うなど、時間とお金をより投資するケースすらあります。これでは悪循環です。
「検定試験合格=英語力定着」という誤解は学習の悪循環を生み出す原因にはなるものの、個人的には検定試験はむしろ活用することをおすすめします。大事なことは合格ではなく、英語の「積み上げ」の確認のために検定試験を活用すること、英語学習を習慣化することだからです。
これらの意識を持つと合否よりも受検結果の詳細内容を重視し、それが英語力の大きな伸びへとつながっていくのです。合格しても英検1級を受験し続ける人のお話をしましたが、これが大きな要因だと思っています。
燃え尽き症候群になる?!
次に検定試験合格の二つ目「燃え尽きて努力をやめてしまうこと」についてお話します。
一定期間集中して検定試験対策教室に通って合格を勝ち取った場合その後1年以上も学習継続の気力がなくなってしまったり、検定試験受検をやめてしまうケースも見てきました。
短期間ゆえに試験対策へのエネルギーが集中し過ぎたのかもしれません。あるいは、自分の意思ではなく親や先生からの期待に応えるために取り組んだので、それ以上英語学習を続ける意欲がわかないのかもしれません。
英語に取り組む意欲もエネルギーも枯渇してしまった挙句、英語学習から完全に離れ、気づいたら合格時の実力すらない、ということも決して珍しいケースではありません。ここでいう英語学習とは、英語に触れていれば何でもいいわけではなく、例え非効率で、短時間であったとしても英語の積み上げにつながるような学習を指します。
でも、そもそも検定試験受検までに相応の英語力が積み上がっていれば、短期集中で取り組む必要もなかったかもしれませんよね?もちろん燃え尽きることもありません。
検定試験の位置づけを正しく捉え、賢く活用して英語力を向上させたいですよね。「英語の積み上げ」作業は検定試験の前も後も継続していくという意識を持って日々の努力を継続する、その結果合格する。これが学習者負担の一番少ない英語力を伸ばす方法でしょう。
英語はなぜ積み上げが必要なのか?
英語に積み上げや日々の努力は理想、だけどうちの子はスイミングと同じように捉えていて難しい!そうかもしれません。なぜ水泳と異なり、週にたった1回(60分~90分)のレッスンで、語学を習得することに無理があるのでしょうか。体力づくりや泳げるようになることを目標とするスイミングとは状況が異なるからです。
スイミングは選手コースでない限りタイムを競う必要もありません。目的が泳げるようになること・体力づくりの場合が大半だと思っているので(違ったらすみません!)、週1回のレッスンでも目的を達成しやすいのではないでしょうか。
英語も目的がアルファベットを言えるようになる、一年で単語を100個憶える、と目標次第では週に1回でも達成できることはたくさんあります。でも「英語力の定着・向上」を目的としているから、週1回の限界が起きるのです。
また英語は語学なので、母語が邪魔するという大きな壁があります。母語の使用頻度と比較するために、英語教室に通っている人が、起きて活動している時間のうちどれくらい英語を使っているかを見てみましょう。小学生で、週に1回60分のレッスンに通っているケースを例にします。睡眠時間を10時間、宿題に取り組む時間を10分とします。
- 1週間で起きている時間 14時間×7日=98時間(5,880分)
- 英語教室で英語を使う時間 1時間(60分)
- 宿題に取り組む時間 10分
英語に触れている時間は1週間合計で70分。起きている時間(5,880分)の 1.2%です。さらに宿題を英語教室のある日当日に取り組んだ場合、英語に触れる日数は週に1日だけです。年末年始や夏休みなどで2週間以上レッスンがないケースも年に数回はあるはずなので、それを考慮すると年間通して英語に触れる時間は活動時間の1%を切る確率すら高くなるのです。
日本で生活する限り英語の使用を迫られる場面は極端に少ないため、私たちは意識しない限り、起きている時間の100%近くを日本語だけで生活しているのです。つまりせっかく英語を習ってきても、習得したものの発声や音、文字の記憶が日本語によって上書きされてしまいやすいのです。
余談ですが、北欧諸国の人たちが幼児を除くと英語を自然に話せるのは、幼少期に見ていたアニメが英語だったからだそうです。人口が少ないので翻訳する予算もつかず、そのまま英語で流すしかなかったようです。ところが今はオンデマンドや自動翻訳の発達によって、最近の若者は英語に触れる機会が減ってきているとか。外国のお国事情は面白い!
楽器も同じ?
私はこの積み上げ作業が必要なのは、楽器も全く共通するのではないかと思っています。
ピアノやバイオリンと言った楽器の習い事の場合、週1回のレッスンで必ず宿題が出て、おさらいや課題曲に取り組んだりと、自宅で求められる作業が多い傾向にあります。これは何らかの形で毎日触れる機会、つまり習慣にするためです。
「一日練習を怠ると自分には分かる。二日怠ると批評家に分かる。三日怠ると聴衆に分かってしまう。」この言葉は著名な作曲家・ピアニストの名言らしいです。私は長いことピアノを習っていたのですが(プロを目指したことは一度もありません(笑))、一日サボると根拠のない罪悪感を覚えたし、感覚が極端に衰えることも自覚できたものでした。
英語も楽器も長年触れてきて思うのは、楽器上達もまた英語力の向上と同じで、習慣化した「積み上げ」が必要ということ。
一方で楽器を習う目的が「楽譜を読めるようになるため」「○○という曲を弾いてみたい」であって、上達することを目指していない場合は、週に1回のお教室通いのみでも目標達成できることはあります。しかし「積み上げ作業なくして楽器上達はなし」。
楽器の上手な人に英語が得意な人が比較的多いのはこのような習慣化した「積み上げ」という共通項があるからかもしれません。
言語習得、英語力向上に「積み上げ作業」が欠かせないことも見てきて、積み上げの重要性を理解した。それにも関わらず、積み上がっていないことに気づけないことがあるのです。「え~、まさか!?」ですよね。なぜなんでしょう?
積み上げに関わる深刻な問題
「積み上げ」ができていないことに気づくのに相当な時間がかかることは珍しくありません。先ほどお話した検定試験の結果を重視することも理由の一つです。5年以上経ってようやく英語力が伸びていないことに気付くケースも珍しくないですし、何年経っても把握できないこともあります。
深刻ですよね?なぜ気づけないのでしょうか?検定試験合格でも気づけない話は先ほどしているので、それ以外の理由を探っていきます。
大きな理由の一つは英語は「同じ間違いを繰り返してもそれが意識されにくいこと」です。英会話レッスンでは、日本語を話せないネイティブの先生は間違いを直せてもその理由まで説明できないし、英会話のメインは「意思疎通がとれてナンボ」なわけで、英語力を伸ばすことと関連付けるのは難しいところもあります。
よくあるケースを紹介します。
「問題集を1冊解き終えた=英語学習した」という勘違いです。間違えた問題を再度解いてもらうと、同じように間違える確率は非常に高いのに、やりっ放し。英語力は間違えた問題を繰り返し解き直すことで「積み上がっていく」のです。1冊解き終えた「やりきった感」から必要性を感じなくなるのでしょう。
「一度解き終えた後に解き直す回数の多さ」が大事なのに、そんな面倒くさい作業「やってらんねぇ~」みたいなノリで軽視されます。その軽視が習慣化された学習スタイル(学習と呼べるのかどうか不明)が年単位で続きます。
私はこのこの問題集を一冊解き終える作業を「仕分け作業」と名付けています。「できる問題とできない問題の仕分け」単なる仕分けの作業であって、学習ではないと生徒たちには伝えていて、それがどんなに習慣化されたところで英語力は伸びません。
一方、例えば競技スポーツでは同じ間違いを繰り返していることが比較的把握しやすく、積み上がっていないことも自覚しやすいと思っています。以下に理由を述べます。
- 英語には勝ち負けがない(達成感を得にくい)
- 英語は個人プレーが多い
- 英語は客観化しにくい(視覚化できない)
1.英語には勝ち負けがない(達成感を得にくい)
競技スポーツは勝ち負けがあることで、個人やチームの力の差が明らかになりやすいですよね。英語学習はその点、他者との力の差が測りにくい要素が満載です。勝敗にこだわることが好きなタイプには、英語はモチベーションを保ちにくいとも言えます。英語のグループレッスンを受けていても、他者と比べた時、間違えてペナルティがあるわけでも、出来たから大きなご褒美があるわけでもない。
英検などの検定試験の合否を勝ち負けと考えられるのでは?という意見もあると思います。一つの指標としては捉えられますが、先ほども述べたように、英語の基礎力や知識の積み上げがあっての合格かどうかは、判断しづらい側面はあります。
海外留学などは別として、国内にいる限り、英語学習のプロセスには大きな挫折感もない代わりに達成感も味わいにくいんです。それが積み上げ不足を認識しづらくさせる理由の一つです。
2.英語は個人プレーが多い
英語学習は集団で取り組む要素がなく(例外はあります)、個人で取り組む作業(自宅学習)を求められることが多いです。
例え教室内に英語力に差がある人が混在していても、チームプレイで活動をする機会も多くないので、他人に迷惑がかかるというプレッシャーもなければ、逆に他者と一緒に頑張る、ということもありません。自分がわかっていないことの自覚もしにくいし、それを放置することへの危機感も抱きにくいのです。人によってはモチベーションも保ちにくいでしょう。
このように他者との関りが希薄なことで、積み上げ不足が把握しづらくなるのです。
3.英語は客観化しにくい(視覚化できない)
「客観化できない」、特に目に見えないことが積み上げ不足を把握しづらくさせる最大要因だと考えています。
画像や動画などで動いている自分の姿を視覚化すると、自分に欠けているものを把握することって簡単ですよね。ちなみにスポーツだけでなく、英語と同様積み上げの必要なピアノやバイオリンといった楽器でさえ、動画撮影や演奏の録音によって客観的に積み上げ不足、繰り返し間違える箇所を把握できるんです。
でも英語はできません。外国人の講師たちと英語で歌を歌ったり、塗り絵や工作をしたり、 ゲームやイベントを楽しむことは「視覚化」できるからと言って、これらを「英語力向上」と捉えることは大きな誤解です。
このように正しく客観化できないことが、積み上げ不足把握を難しくさせるのです。それだけにとどまりません。
さらに深刻な問題にも発展…感情の問題
視覚化できないと、本人が一番何が積み上がっていないのか自覚できないまま、先生からの指摘を認めざるを得ない状況になります。これが重なると、どうなると思いますか??一方的に自分の非を責められているような気持になって英語学習にネガティブな思いを抱える場合すら出てくるのです。
個人的にはとても納得できる経験があるんです。
私はクラシックバレエを習っていて自分の踊っている姿を時折録画します。本心ではこの動画から「目をそむけたい!!」なぜなら自分が考えている以上に踊りが下手だからです。とはいえ、そのおかげでバレエにおける「積み上げ」ができていないことが判明し、時には先生の指摘よりも動画の方が上達できるくらい!
一方で動画を見れない状況で先生からの注意を受けているだけの場合「えぇ?私なりに頑張ってやっているのに何で….??」という思いを抱えることも時にはあるのです。客観化できないもの、視覚化できないものに対して、指摘を受け入れること、理解することって難しい!
英語の積み上げ不足に気づけない理由も無理はない…と生徒の気持ちにも納得できるのです。
そんな生徒達に気持ちよく英語を勉強してもらうためには、自分の姿を客観的に見てもらうこと!という結論にたどり着いています。英語力を客観化できる方法として、発音を録音したり発話の様子を録画したりと試しています。
英語において「積み上げ不足」に気づきにくく、気づいた時にはかなりの時間が経っていた、場合によっては感情論も絡む。それを回避するためには、積み上げを習慣にするしかない?英語学習って結構要求が大きい!うちの子は3日坊主!反抗期だし!理解だけでは現状は変えられない!このような場合もあるでしょう。
最後にモチベーションが大きく関わる「積み上げ」の取り組み方法、習慣にする方法についてみてみましょう。
何からできる?
何かを取り組む際に、「3日坊主でもええやんか!」と生徒たちにしていた同僚の先生がいました。「3日続いたという事実を作ることが大事、辞めてもまた3日続けたら良い」というのです。一理ありますが、積み上げ教科の英語はせめて「5日坊主」くらいが望ましい(笑)。
5日も無理?そういわず、できることことから考えていきましょう。
- 1週間のスケジュールを時系列に書き出す
- 5~10分の隙間時間を見つける
- 同じ時間帯で、多くの日にできるところを見つける
私たちはみんな忙しいし、やりたいことしかしたくない傾向があります。でも、忙しい中でやりたいことをガマンせず、「できることを探す」ことをしていない人が少なくないと思うのです。だからまず、1.スケジュールを全て洗い出しましょう。
意外と何をしているのか自分でも把握していなかった空白の時間があるはずです。スマホいじりもストレス解消かもしれませんが、無意識に時間が過ぎていたとしたら、モッタイナイ!!
2.空白時間を探す、といっても30分単位の大きな時間である必要はありません。5~10分でOK。その中でできることを作ればいいのです。1日単語5語、あるいは、英文2文を「聴く+音読」。5分あれば十分ではないでしょうか。スマホに音源を入れておけば簡単にできますよ!
3.曜日関わらず極力同じ時間帯にする意味は、習慣化すること、そしてやり忘れを防ぐため。
取り組み例1
小学2年生。国名を学習する際、日本との関りの比較的薄い「ナウル共和国」「セントルシア」「キリバス共和国」「バチカン市国」と言った国名も追加で憶えたい!と張り切る。毎週10か国を宿題にし、5か国ずつの音源を二つあげました。その生徒の取り組み方法は
- 「毎日寝る前」
- 5か国ずつを日によって交互に選ぶ
- 聴く・音読
- 所要時間5分前後
1ヶ月経つと、40か国近くの国旗を見たらか国名言える、つづりを見ても読み上げられる、発音もネイティブ級。さらに国名は実はオマケ。学習テーマは「△△国では何時?」「✕時○分です。」の質疑応答文でした。”What time is it in 国名?” “It’s ✕○.” お陰でこちらもバッチリ定着。
英検や試験を目指していないので、英語力が伸びたことが見えづらいかもしれませんが、定着していることが経験からわかります。
取り組み例2
65歳で司法試験に合格された71歳(2021年6月時点)の現役弁護士「吉村哲夫」さん。合格に至るまでの勉強法を紹介します。残念ながら面識はありません(笑)。
起床後と食後は、15分以内に机の前に座ることを習慣づけて、やる気がなくてもテキストを開くようにしていました。この間、ちょっとでもほかのことをしようものなら、勉強が後回しになってしまい、結局やらなくなる。それを避けるためにも、必ずこのルールだけは守っていたんですが、次第にやろうという気持ちが出てくるんです。
65才で司法試験に合格した元公務員 「勉強は体系的にするものではない」マネーポストWEBより
3日坊主を歓迎する同僚の言葉が浮かびます。それは上述にある「この間、ちょっとでもほかのことをしようものなら、勉強が後回しになってしまい、結局やらなくなる。」という個所からです。後回しにしないことが3日続いたら、例え中断してしまっても、それ以降、さほどつらくないと思うのです。
リンクを貼った記事には、吉村さんの5つの勉強術がまとめられています。
- 五感をフル回転させて記憶力をアップ。
- やる気がなくてもテキストを開く。
- 勉強は起きて15分以内、食事をしてから15分以内にやる。
- 睡眠時間は8時間確保。
- テキストは興味のあるところから手をつける。
内容は英語学習であってもコツコツと取り組む方法へのヒントが満載ですよね。弁護士に合格する人が「人間はとかく意志が弱い」と言っているということには安心もするし、だからこそ合格できたのかな?とも思います。なぜならば、上述3つ目の「やる時」を決めることが、弱さ克服を強烈に意識している行動だからです。もちろん、読んでくださっているみなさんに弁護士になってください、とは全く言いません(笑)
吉村さんが65歳で合格したということは、現役でお仕事をされながら司法試験勉強をされていたと想像できます。それに比べると毎日10分程度の英語に取り組んで「積み上げ」をしていくことって、そんなに大変なことではない、と思えてきませんか?
反抗期のお子さん、親の話はシャットアウトするかもしれませんが、世間の小2、あるいは初老の男性の経験談には多少耳を傾ける可能性があると期待しています!
モチベーションの維持は自立にも通じる?
そうはいっても、所詮他人の話。やる気が起きるわけない!というお子さんもいらっしゃいますよね。
- まずは、英語に取り組むことを「本人」の意思で決める
- 目標とスケジュール表を作る。毎日取り組む時間を決める。3つの方法を使うもアリ。
①スケジュールの書き出し ②隙間時間探し ③毎日できる同じ時間帯の決定 - ご褒美を自ら作る。(6日間達成出来たら、ゲームで遊べる時間を週末に1時間追加、など。)
目標設定については別の記事(子供の英語目標の具体例!英語嫌い回避のカギ、目標の設定方法を考察)で書いているので、よろしければご参照ください。
ここで大事なのは「親の期待に応えるために勉強する」という形を作らないこと。
小さい子は特に親の喜ぶ顔が見たくて頑張れるのですが、それが続くとお互いに苦しくなることもあるし、日々の努力継続のためのモチベーションとして決して強くはならないんです。残念ながら親御さんの中にはこのことに気づかない方もいらっしゃいます。
親の期待に疲れちゃった例
小学校5年生。幼稚園からずっと週に1回英会話教室に通っていた生徒さん。they の意味を理解していないレベルで英語力が積み上がっていませんでしたが、英検の下位級にギリギリ合格。
親御さんは「大喜び」し「頑張り」を労ったそうです。大喜びされたその生徒さんは親を喜ばせたい気持ちが膨らんでその上の級の受検を決めたものの「日々の積み上げ努力なしに合格した」経緯があるので家庭学習をすることができません。
そもそも親の言う頑張り=週1回の英語教室に通っていること、受検したことであり、日々の継続的な努力についてではありませんでした。
結局家庭学習に取り組むことがどうしてもできず、ついにその生徒さんは試験対策勉強をしないことを宣言。それでも「週一回の教室通いで合格できるのではないか?」という思いを捨てきれないまま、ネイティブの先生との週1回の会話レッスンを1年以上継続していました。1年経っても上位級の合格どころか受検すらしないままでした。
小さなことでもいいよ!
「英語をやると決め」「英語の目標」「スケジュール」「ご褒美」に至るまで自分で決めてもらうのは、日々の努力を継続させるためです。ざっくりでOK。小さな目標でもOK!一日3分でもOK!
もちろん、子どもが100%自分で決められるはずがありません。親御さんのサポートのもと「自分で決めた」ような気持にさせることが大事です。「何かを達成できた」ことは「積み上げ」の重要性を自覚するきっかけになるし、引いては英語力向上につながるのです。遠回りのように見えても究極的には自立への1歩にもつながっていきます。
それでもやはり子供ですから逃げ道(言い訳をさせてあげる、3日坊主も両眼をつぶる、失敗を非難しない、など)はいくつかも用意してあげてくださいね。大人も完ぺきではありませんから💦!
まとめ
以上、英語が伸びない理由である「積み上げ」不足について、積み上げを習慣化させる方法をお話させていただきました。ポイントは以下の通りです。
- 英語力向上を望むなら、体力づくりのスイミング教室と同じようには捉えては危険
- 積み上げが必要となる大きな理由=母語+(ほぼ母語しか使わない)環境
- 積み上げ不足の検定試験合格は危険!
- 問題を深刻化させる原因=積み上げが客観的に捉えられないこと(私も悩み中!)
- 積み上げ習慣はできることから始める(1日5分、継続できるタイミングは?)
- 自分で決めよう!(保護者サポートが一番必要なところ!)
何事もそうですが、何かを習得し、伸ばすことは大変なことです。子どもならなおさらです。週1回で何かを達成させられることの方が実は不自然なんですが、それができればみんな苦労しませんよねぇ~。
最後になりましたが、英語力の客観化している私の取り組みを2つ紹介させてください。
一つ目は動画。
生徒に短めの英文を暗唱してもらった様子を録画し、再生時に口元をアップに(拡大)。発音時の口の形が明確に把握でき、フォニックス強化の学習に最適です。口を動かしているつもりで動いていないことや正確でないことが本人にもわかります。これを気に入って自撮り棒を買って、自ら動画撮影をするほどになった生徒もいるほど。
もう一つは録音。
宿題として課す音声を録音するのですが、その音声モデルは私だけでなく、生徒本人の声も合わせています。最初はめちゃくちゃ恥ずかしがって抵抗を示す子どもたちも、2週間もすると抵抗なし。さらにはモデルと自分の発音の違いに自ら気づけるようにまでなります。
とはいえ、これはまだまだ試している段階。こんな良い方法あるよ~!という方、むしろ是非教えてください!
日々のコツコツはもちろん大事ですが「燃え尽きないこと」も等しく大事!「英語力の積み上げ」のために、習慣化する方法が異なるように、「無理なく取り組める分量」もそれぞれ。「誰それが悪い!」と責任を追及するのではなく、「今から何からできるかな?」と前向きに考えましょう!
誰も悪くないです!「英語の積み上げ」=「英語力向上」につながるやり方探しです!
最後までお読みいただきありがとうございました!
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